2025.12.22 起業ガイド
臨床工学技士が起業で病院勤務経験を活かす3つの手法と手順
Index
「病院の給与規定や夜勤の拘束からは逃れられない」
「医療機器のスペシャリストとしての経験を、もっと正当に評価される環境で発揮したい」
キャリアの将来性に不安を抱き、現状打破のために起業を検討しても、「医師の指示下という業務上の法的制約」や「安定した収入が途絶えるリスク」を前に、行動をためらう方は少なくありません。
本記事では、臨床工学技士が起業で着実に成果を出すための手順と、病院勤務経験を活かせる3つの事業モデルを解説します。
最後まで読めば、あなたが培った高度な専門性を独自の事業に変え、医療法規を遵守しながら年収アップを実現する具体的な方法がわかります。
臨床工学技士の起業が注目される理由と市場の将来性
2024年臨床工学技士の業務実態報告では、臨床工学技士の約8割が病院・診療所に勤務しており、依然として病院勤務が中心であることが示されています。
その一方で、医育機関や企業・メーカーに所属する臨床工学技士も一定数存在し、病院の外で専門性を生かすキャリアも広がっています。
こうした業務範囲と関与領域の拡大は、病院内リソースだけでは対応しきれない分野が増えていることを示しており、臨床工学技士が起業や独立によって新たなサービスを提供する余地が生まれています。
医療機器管理業務の外部委託ニーズの増加【3割超】
心臓植込み型デバイスの植込み手術については、「操作室・治療室内で労務提供あり」と回答した施設が3割超を占めており、外部業者が機器の設定や操作に実務的に関与していることがわかります。
説明のみの立ち合いや、操作室まででの対応も含めると、多くの現場で医療機器運用の一部が院外の専門人材に依存している状態です。
これは、医療機器管理や高度な設定業務を外部に任せるニーズが既に顕在化しており、臨床工学技士がフリーランスや専門会社としてサービス提供する土台があることを示しています。
タスクシフトによる業務範囲の拡大と将来性
タスクシフトとは、本来ある職種が担当していた業務の一部を、資格やスキルのある別の職種に移すことです。
アドオン調査では、血液浄化や人工心肺だけでなく、呼吸治療、在宅呼吸、集中治療・救急、内視鏡、手術室、心臓カテーテルなど、多様な診療領域で臨床工学技士が関与していることが示されています。
臨床工学技士の業務が機器操作だけでなく、安全管理や在宅医療、デバイスフォローアップへと広がっている実態がわかります。
タスクシフトによって役割が拡大している現状は、将来的に臨床工学技士が自らサービスや事業を設計し、医療機関の外から支援する可能性が高まっていることを裏付けます。
病院勤務の給与課題とフリーランスの収入比較
病院勤務の臨床工学技士は、仕事の不満として「オンコール待機」「休日勤務」「残業時間」「給与」などを多く挙げており、特に時間的拘束の強さが大きな負担になっています。
一方でフリーランスや業務委託として働く臨床工学技士の事例では、夜勤やオンコールを抑えながら日当・案件単価ベースで病院常勤時より高い水準の収入を得ているケースも。
時間の自由度と収入面の両方で、改善が期待できる働き方として位置づけられます。
臨床工学技士が起業で選ぶべき3つの事業モデル
臨床工学技士(CE)の資格と経験を活かした起業は、3つに分類できます。
- 技術提供
- 教育・コンサル
- 開発・販売
自身の得意分野や目指す働き方に合わせた起業方法を選択するのがポイントです。
技術提供型のフリーランスとして現場を支援する方法
臨床経験を直結させやすいのが、フリーランスの臨床工学技士として病院やクリニックと契約し、技術を提供する起業方法です。
日本臨床工学技士会の調査でも明らかになっている通り、透析クリニックの穿刺業務や機器管理、当直・オンコール対応の人員不足は深刻な課題です。
フリーランスとしてこれらの「人手が足りない業務」をスポットで請け負うことで、病院側は採用コストを抑えられ、技士側は高単価な報酬を得られるというWin-Winの関係が築けます。
特に、透析業務や手術室の機器操作など、即戦力としてのスキルがあれば、独立直後から安定した収益確保が見込めます。
医療コンサルティングや教育事業で起業する方法
現場での作業ではなく、長年培った「知識」や「ノウハウ」を商品とする起業方法です。
例えば、医療事故防止のための安全管理体制の構築支援や、若手技士・看護師向けの医療機器取り扱いセミナーの開催などが挙げられます。
近年では、医療機器管理の効率化やコスト削減(SPD業務の見直しなど)を提案するコンサルティングの需要も高まっているのが現状です。
現場の手を動かす労働集約型の働き方から離れ、経営視点で医療機関に関わりたい方に適しています。
自身の知見が複数の病院の質向上につながるため、大きなやりがいを感じられる起業方法です。
アプリ開発や機器販売など企業と連携した方法
医療現場の「不便」を解消するプロダクトやサービスを開発・販売する起業方法です。
臨床工学技士は、医療機器と臨床現場の両方を深く理解している稀有な存在です。
「こんな管理システムがあれば便利なのに」「この機器の操作性はここが課題だ」など現場ならではの気づきを、IT企業や機器メーカーと連携して形にします。
具体的には、ME機器管理アプリの開発監修や、医療機器メーカーの販売促進サポート(アプリケーションスペシャリスト的な役割)を業務委託で請け負うケースがあります。
初期の労力は大きいですが、事業が軌道に乗れば大きなスケールで収益を上げることが可能です。
臨床工学技士が起業するまでの具体的な手順と準備
臨床工学技士の起業を成功させるためには、勢いだけでなく綿密な準備が必要です。
病院勤務という守られた環境から事業主として自立するために必要なステップには、3つあります。
- 自身の専門スキルと経験を棚卸しする
- 開業届の提出や資金調達など事業環境を整備する
- 医療機器メーカーや病院への営業と案件獲得
在職中から少しずつ準備を進めれば、スムーズな起業が可能になります。
自身の専門スキルと経験を棚卸しする
まずは、自分が「何ができる臨床工学技士なのか」を言語化することです。
「透析業務経験10年」といった経歴だけでなく、「穿刺困難な患者への対応成功率が高い」「医療機器管理システムの導入でコストを20%削減した実績がある」など、具体的な成果や得意分野を洗い出します。
顧客となる病院や企業がお金を払ってでも解決したい課題は何かを考え、自分のスキルがどう役立つかを整理します。
この棚卸しが、のちの営業活動における強力なアピール材料です。
開業届の提出や資金調達など事業環境を整備する
事業を行う覚悟が決まったら、税務署へ「開業届」を提出し、個人事業主としての活動をスタートさせます。
同時に、青色申告承認申請書も提出しておくと節税面で有利です。
初期費用がかかる事業モデル(機器の購入や店舗契約が必要な場合など)であれば、日本政策金融公庫の創業融資制度などの活用を検討します。
フリーランス型やコンサル型であれば初期投資は少なくて済みますが、当面の生活費として半年分程度の運転資金は確保しておくのが賢明です。
医療機器メーカーや病院への営業と案件獲得準備
起業後は、自ら動いて案件を獲得する必要があります。
まずは、これまでの勤務で培った医師やメーカー担当者との人脈を活用し、「独立してこのようなサービスを始めた」と挨拶回りをすることから始めます。
また、SNSや自身のWebサイトで専門的な情報を発信し、認知度を高めることも有効です。
医療機器メーカーに対しては、自社製品のインストラクターやセミナー講師として売り込むことで、定期的な案件獲得につながる可能性があります。
信頼が第一の医療業界では、ひとつの仕事で着実に成果を出し、紹介の輪を広げていくことが案件獲得に必要です。
臨床工学技士の起業で失敗しないための対策と判断
医療資格者が起業する場合、一般的なビジネスとは異なるリスクや法的な制約が存在します。
独立後に「こんなはずではなかった」と後悔しないために、事前に押さえておくべきリスク管理とキャリアの判断基準について解説します。
臨床工学技士法など関連法規の遵守と確認
臨床工学技士が独立して業務を行う際、最も注意しなければならないのが「臨床工学技士法」や「医師法」などの法的規制です。
臨床工学技士の業務は「医師の指示の下」で行うことが法律で定められています。
そのため、医師の指示がない状態で独自の医療行為を行うことはできません。
フリーランスとして病院と契約する場合も、業務委託契約書の中で指揮命令系統や責任の所在を明確にしておく必要があります。
法的なグレーゾーンに踏み込まないよう、弁護士や行政書士などの専門家に相談しながら事業設計を行うことが、あなたと資格を守ることにつながります。
企業就職と独立のメリットを比較したキャリア選択
現状の不満を解消する方法は、必ずしも起業だけではありません。
医療機器メーカーや商社などの「企業」へ就職・転職すれば、年収アップやワークライフバランスの改善が実現できる場合もあります。
企業就職は、組織の安定性や福利厚生が得られる反面、業務内容や時間の裁量は制限されます。
一方、起業は全て自己責任ですが、収入の上限に関係なく自由な働き方が可能です。
自分の性格やライフステージに照らし合わせ、いきなり独立するのではなく、一度企業でビジネススキルを磨いてから起業するという選択肢も検討しておきます。
副業から開始し安定収益を確保するリスク管理
リスクを最小限に抑える最良の方法は、病院勤務を続けながら「副業」として小さく始めることです。
休日に単発のアルバイトをしたり、夜間にライティングや資料作成の仕事を請け負ったりすることで、自分のスキルが市場で通用するかを試せます。
副業で月数万円でも稼げる自信と実績がついた段階で独立すれば、収入が途絶える恐怖を感じることなく事業に専念できます。
まずは勤務先の就業規則を確認し、可能な範囲で病院外での活動を始めてみることが、安全な方法です。
まとめ:専門性を活かし理想のキャリアを実現しよう
臨床工学技士の起業は、決して難しいものではありません。
病院という組織を超えて、あなたの高度な専門技術や現場経験を求めている場所は確実に存在します。
まずは自分のスキルの棚卸しを行い、小さくても良いので行動を開始してみましょう。
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