2025.12.11 起業ガイド

設計事務所起業でひとり経営でも稼ぐ!独立準備と集客方法

設計事務所起業でひとり経営でも稼ぐ!独立準備と集客方法

「一級建築士や二級建築士の資格を取り、組織設計事務所やアトリエ事務所で実務経験を積んできたものの、このまま所員として働き続けても年収や裁量は変わらないのではないか」

このように感じて設計事務所の起業を検討しても、経営知識がないまま独立することへの恐怖から、独立を躊躇する方は少なくありません。

この記事では、建築士が独立後に直面する金銭的なリスクを排除し、個人でも安定経営を続けるための手順と集客方法を解説します。

本記事を読めば、あなたの設計スキルと経験を正当な対価に変え、ひとり経営でも生活できる事務所経営がわかります。

設計事務所起業でひとり経営の現実

設計事務所をひとり経営で起業した場合、「理想の設計を仕事にできる」やりがいと並んで、現実には受注獲得や年収確保の厳しさもあります。

つねに複数の事務所と案件を競い合い、営業・見積・資金繰りもすべて自身で行う必要があるため、資格やスキルだけでは安定した収入につながりません。

ここからは、実際の数値や公式データをもとに、廃業率や年収相場、「一級建築士でも厳しい」と言われる背景を現実的に見ていきます。

データで見る個人設計事務所の廃業率と生存率


出典: 4.資金繰りと倒産・休廃業 第1-1-26図|中小企業庁

中小企業白書のグラフによると、中小企業の資金繰りがリーマンショックやコロナ禍で大きく悪化し、特に小規模事業者ほどコロナ前の水準まで回復していないことがわかります。

多くの個人設計事務所はこの「小規模事業者」に該当し、売上が落ちたときに手元資金が不足しやすく、借入金の返済負担も重くなりがちです。

設計業は契約から竣工まで、さらに入金までの期間が長く、固定費と生活費は毎月発生するため、グラフが示すような「小規模ほど資金繰りが厳しい」傾向は、個人設計事務所の廃業率や生存率にもそのまま跳ね返りやすい構造だと言えます。

独立後のリアルな年収相場と生活水準の変化

国土交通省の建築士登録状況では、一級・二級・木造建築士が全国で延べ約120万人、建築士事務所は約7万拠点とされており、有資格者と事務所の数が多いことが分かります。

有資格者と事務所の母数が多いほど、案件単価や受注数の差が年収・生活水準の差になりやすく、「同じ一級建築士でも、働き方や事務所のポジション次第で年収レンジが大きく分かれる」ことも分かります。

一級建築士でも独立が厳しいと言われる理由


出典:建築士事務所の数の推移|国土交通省

建築士事務所数の推移を見ると、全国で数万拠点の事務所が長年高い水準で並び、都市部では1つの都府県内だけで数千事務所が競合する状態が続いています。

つまり一級建築士として独立しても、既に多数の事務所が同じ市場で案件を取り合っているため、「資格があるだけでは仕事が自然に集まらず、営業力と事務所の特色がなければ安定した年収に届きにくい」という厳しさが前提条件となっています。

設計事務所の起業に必要な資格とひとり経営の開始手順

建築士として独立するには、ただ「開業します」と宣言するだけでは不十分であり、法律に基づいた登録手続きが必要です。

とはいえ、手続き自体は複雑すぎるものではなく、要件さえ満たしていれば誰でもスムーズに進められます。

ここでは、ひとり経営でスタートするために最低限必要な資格要件や設備、書類作成のポイントについて、具体的なステップを解説します。

管理建築士の要件と事務所登録の具体的な流れ

設計事務所を開設するためには、都道府県知事の登録を受ける必要があり、その際に必須となるのが「管理建築士」の設置です。

管理建築士になるには、建築士として3年以上の実務経験を積み、登録講習機関が行う「管理建築士講習」を修了していなければなりません。

独立を決意したら、まずは講習の空き状況を確認し、早めに受講を済ませておくことが大切です。

講習修了証が手元に届いたら、各都道府県の建築士事務所協会などの窓口へ行き、登録申請書を提出します。

登録には手数料として約1万5千円から2万円程度がかかり、申請から登録通知が届くまでに1ヶ月から2ヶ月ほどの期間を要します。

この登録が完了してはじめて、「一級建築士事務所」や「二級建築士事務所」としての業務契約が可能になります。

ひとり設計事務所の始め方に必要な設備と資金

ひとり経営で小さく始める場合、高額な初期投資は不要であり、最低限の設備さえあれば業務は可能です。

具体的に用意すべきものは、設計業務に耐えうるスペックのパソコン、CADソフト、A3対応のプリンター、そして通信環境です。

これらはすでに所有しているものがあれば流用できるため、わざわざ新品を買い揃える必要はありません。

また、開業資金についても、自宅を事務所にするならば賃貸契約の初期費用がかからず、数十万円程度の手元資金でもスタートできます。

見栄を張って最初から立派なオフィスや高価な什器を揃えるのではなく、売上が安定するまで固定費を徹底的に抑えることが、廃業リスクを下げるポイントです。

個人事業主として開業届を出すタイミング

個人事業主として設計事務所を始める場合、税務署への「開業届」の提出が必要です。

提出期限は原則として開業日から1ヶ月以内とされていますが、事務所登録が完了し、事業を開始できる状態になったタイミングで提出するのが一般的です。

あわせて「青色申告承認申請書」も提出しておくと、最大65万円の特別控除が受けられるため、節税効果が大きくなります。

この申請書は開業日から2ヶ月以内に提出しなければならないため、開業届とセットで手続きを済ませてしまうのが効率的です。

税務上の手続きを後回しにしていると、確定申告の時期になって慌てることになります。

事業主としての自覚を持つためにも、開業直後の早い段階で税務署への手続きを完了させることをおすすめします。

設計事務所起業で生活できないリスクを回避する資金計画

設計技術が一流であっても、お金の管理をおろそかにすれば、事務所の経営は立ち行かなくなります。

ここでは、独立後に「生活できない」という事態を避けるために必須となる、現実的な資金計画と報酬設定の考え方について解説します。

設計料入金までの空白期間を乗り切る運転資金

設計事務所の経営において大きな課題となるのが、契約から最終金の入金までに長い時間がかかることです。

住宅の設計監理であれば、初回面談から竣工・引き渡しまで1年以上かかるケースも珍しくありません。

その間、設計料は「契約時」「確認申請時」「上棟時」「竣工時」などに分割して支払われることが多いですが、毎月の生活費や経費は出ていきます。

そのため、独立当初は売上が立っても現金が手元に入らない期間が続くことを想定し、最低でも半年分、できれば1年分の生活費を運転資金として確保しておくことが必要です。

手元のキャッシュが尽きると精神的に追い詰められ、良い仕事ができなくなるため、余裕を持った資金準備が心の安定と仕事の質を守ることにつながります。

収支計画を徹底し安売りを防ぐ報酬設定の基準

独立直後は実績を作るために安価で仕事を受けてしまいがちですが、安すぎる報酬設定は自分の首を絞める原因です。

適切な報酬基準を持たずに「安くします」と営業してしまうと、薄利多売の激務に追われ、本来注力すべき設計業務や次の営業活動に時間を割けなくなります。

報酬額を決める際は、国土交通省の「業務報酬基準(告示第98号)」を参考にしつつ、自分の稼働時間や経費、利益を積み上げた金額を算出します。

「これ以下の金額では受けない」という最低ラインを決め、見積もりではその根拠を施主に丁寧に説明することが重要です。

プロとしての適正価格を提示することは、信頼獲得につながるだけでなく、事務所の経営を持続可能なものにするための責任ある行動と言えます。

固定費を抑えて利益を残す自宅開業のメリット

売上が不安定な創業期において、確実に出費となる固定費をいかに抑えるかが設計事務所経営で生き残れるのかを左右します。

有効な手段が、自宅の一室を事務所として使用する「自宅開業」です。

新たに事務所を借りると、家賃や敷金・礼金、光熱費などが毎月重くのしかかりますが、自宅であればこれらの追加コストを最小限に抑えられます。

さらに、自宅の家賃や光熱費、通信費の一部を事業経費として計上できるため、節税面でのメリットも期待できます。

通勤時間がなくなれば、その分を設計や勉強の時間に充てることができ、ワークライフバランスも調整しやすい点が特徴です。

まずは自宅で小さく始め、利益が十分に確保できるようになってから外部オフィスを検討するステップが、無理なく大きくしていく方法です。

設計事務所起業で仕事がない不安を消す集客と仕事の取り方

数ある設計事務所の中から自分を選んでもらうためには、能動的に仕掛ける戦略が必要です。

ここでは、実績がない状態からでも仕事を獲得するための、泥臭くも確実な営業手法と、Webを活用した集客の仕組みづくりについて解説します。

実績ゼロから案件を獲得する工務店への営業手法

独立直後で個人の実績がない場合、まずは地場の工務店や建設会社とパートナー関係を築くことが有効な手段です。

多くの工務店は慢性的な人手不足であり、社内の設計担当だけでは図面作成や申請業務が回らない状況にあります。

そこに「設計や確認申請のサポートが可能です」とアプローチすれば、外注パートナーとして歓迎される可能性が高まります。

最初は黒子としての業務かもしれません。

しかし、確実な仕事をこなし信頼を積み重ねれば、やがて設計施工案件のプランニングを任されたり、施主を紹介されたりする関係へと発展します。

プライドを捨てて相手の困りごとを解決する姿勢が、安定した収益基盤を作るための足掛かりになります。

専門性を打ち出してWebから集客する仕組み

ホームページやSNSで集客する場合、「どんな設計でもできます」という総花的なアピールでは、競合の中に埋もれてしまいます。

ユーザーに選ばれるためには、「狭小住宅専門」「高気密高断熱リノベーション」「店舗併用住宅」など、特定の分野に特化した専門性を打ち出すことが不可欠です。

ターゲットを絞ることで、ユーザーにとって「自分のための設計事務所だ」と感じてもらいやすくなり、問い合わせの確率が上がります。

ブログやSNSでは、その専門分野に関する役立つ知識や施工事例のプロセスを発信し続け、専門家としての権威性を高めていきます。

ニッチな市場であっても、ナンバーワンの認知を獲得できれば、Webからの安定的な集客ルートを確立することが可能です。

紹介だけに頼らず安定して仕事を獲得する経路

知人や元同僚からの紹介はありがたいものですが、それだけに依存するのはリスクが高い経営状態です。

紹介案件は波があり、いつ途切れるかわからないうえ、しがらみから断りにくい、価格交渉がしにくいといったデメリットもあります。

経営を安定させるためには、紹介という「受け身のルート」とは別に、自力で顧客を獲得できる「攻めのルート」を持つことが大切です。

例えば、建築家マッチングサイトへの登録や、地域のイベントへの参加、完成見学会の開催など、複数の入り口を用意しておきます。

集客チャネルを分散させておくことで、1つのルートが不調でも他でカバーできるようになり、精神的な余裕を持って日々の業務に取り組めるようになります。

まとめ:設計事務所の独立は準備次第で理想の働き方ができる

設計事務所の起業は、決して平坦な道ばかりではありませんが、正しい手順で準備し、経営者としての視点を持てば、恐れることはありません。

資金計画を綿密に立て、自分の強みを活かした集客ができれば、組織に属していた頃には味わえなかった自由と、収入アップの両方を実現できます。

まずは自分の得意分野を見つめ直し、無理のない範囲で小さな準備から始めてみてください。

◯関連記事
【朗報】起業は難しくない!凡人でも成功できる5つの理由と始め方
起業の準備期間は平均1年?最短で独立するための7ステップと成功ロードマップ

Related Posts

ニュース一覧へ戻る