2025.12.05 起業ガイド

精神保健福祉士の起業で広がる働き方ガイド-小さく始める3つの道

精神保健福祉士の起業で広がる働き方ガイド-小さく始める3つの道

導入文
精神保健福祉士として毎日忙しく働きながら、組織の事情や人員不足の中で、十分な関わりができないもどかしさがある。 「もっと自分らしく相手を支えたい」「自分にできる形をつくりたい」という思いを持っていませんか?

同時に「失敗したくない」「自分にできるのか」という不安で起業への一歩を踏みとどめてしまっているのなら、ぜひこちらの記事をお読みください。

この記事では、精神保健福祉士として、起業初心者の方でも無理なく選べる起業・副業の形を社会的ニーズ、具体的な事例をもとに整理していきます。

「特別なことはできないから起業できない」という思い込みを解いて、自分にもできる小さな一歩から進めてみてください。

精神保健福祉士の起業が求められる社会背景

まずは、精神保健福祉士が求められている今の状況を整理します。

データをもとに現状を知ることで、「社会的な必要性に応える働き方」としてイメージしてみてください。

精神疾患・精神障害患者の増加が示す支援ニーズ

精神保健福祉士起業
出典:内閣府「令和7年版障害者白書(全体版)参考資料 障害者の状況」

内閣府の調査では、精神疾患を有する総患者数は2023年時点で約576.4万人と報告されました。

およそ「国民20人に1人」が何らかの精神疾患を抱えているということであり、外来患者数は2002年から2倍以上増加しています。

病名の内訳を見ると、うつ病などの気分障害、適応障害を含むストレス関連障害、発達障害や依存症など背景や状況の異なる人が多く、これまで以上の多様な支援の形が求められています。

入院患者はやや減少傾向にある一方で、外来・地域で生活する人は増えており、「医療の中だけで完結しない支援」「生活と仕事を含めた支え」がこれまで以上に必要になっています。

国のメンタルヘルス・障がい者福祉・就労支援施策の広がり

国の施策としても、メンタルヘルスや障害福祉、就労支援に力が入れられています。

厚生労働省は、労働者の心の健康の保持増進のための指針やストレスチェック制度を通じて、企業にメンタルヘルス対策や復職支援の仕組みづくりを求めています。

また障害福祉の分野でも、全国の自治体が住民の地域生活を支えるために、相談支援センターや生活支援拠点を整えてきました。

こうした国の制度や事業が広がるほど、精神保健福祉士が関われる領域も拡大していきます。

精神保健福祉士が足りていない現状

支援の必要性が高まる一方で、「精神保健福祉士は十分に配置されている」とは言いにくい現状です。

精神保健福祉士の資格を取得した人の就労先は、医療機関、高齢者福祉、障害者福祉、行政機関など多岐にわたります。

令和2年度の就労状況調査では、1事業所に1名のみ、あるいは少数しか配置されていないケースが多いことが指摘されています。

また、司法・教育・地域・就労など新しい分野における精神保健福祉士の役割の拡大が求められており、「必要とされる場に対して人材が追いついていない」という構図も見えてきます。

精神保健福祉士起業の前に-今の働き方と平均給与を整理

ここでは今の精神保健福祉士の一般的な働き方を整理します。

自分の現在地を把握することで、今の働き方から小さく仕事を広げていくという発想ができます。

精神保健福祉士はどんな仕事をしているのか?業務内容と支援パターン

精神保健福祉士は、精神障害やメンタルヘルスの課題を抱える人や家族に対して、生活と社会とのつながりを支える専門職です。

精神保健福祉士法では、精神障害者の保健及び福祉に関する「専門的知識及び技術をもって、社会復帰の促進を図ること」を使命としています。

精神保健福祉士の主な仕事は次のような内容です。

  • 本人・家族からの相談を受け、状況を整理する
  • 医師・看護師・作業療法士・就労支援員など、関係職種と連携する
  • 生活保護、自立支援、就労支援などの支援計画の作成と調整を行う
  • 制度・サービス・人をつなぎ一緒に調整していく役割が中心です。

    これらのスキルはそのまま「個人相談」「家族支援」「企業向けコンサルティング」などの起業にも転用しやすい強みとなります。

    どこで働くのが一般的か?勤務先のパターン

    精神保健福祉士の働く場所は、医療・福祉・行政を中心に幅広く広がっています。

  • 精神科病院・一般病院の精神科病棟
  • 相談支援事業所、障害福祉サービス事業所
  • 保健センター、精神保健福祉センター、市区町村の福祉担当課
  • 司法・矯正分野、教育分野、企業領域
  • 従来は医療機関が中心でしたが、近年は地域生活支援や司法・教育・企業など、より生活に近い場でのニーズが高まっています。

    こうした多様な経験は「どの領域で起業するか」を考える材料になります。

    たとえば、病院での復職支援にやりがいを感じてきた人は「復職・就労支援の個別相談」、家族支援が好きな人は「家族のための相談会」といった形でイメージが描けます。

    精神保健福祉士の給与は?平均給与と働き方パターン

    出典:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター「精神保健福祉士就労状況調査実施結果報告書」(令和2年度)p.99(PDF内_P.17)

    収入面も、起業を考える上で見ておきたいポイントです。

    社会福祉振興・試験センターの令和元年の調査では、精神保健福祉士の平均年収は404万円(2019年時点)と報告されました。

    前回調査(平成27年度)より約57万円増加しましたが、「極端に低くはないけど余裕があるとは言いにくい」水準です。

    また、この平均値は「福祉・介護・医療の分野」で働いている「正規職員」のフルタイム勤務が中心であり、契約職員やパートタイムの方の年収はさらに低い傾向です。

    ただ、注目すべきは「福祉・介護・医療の資格者を養成する」教育機関などで勤務している人の年収が552万円となっており、勤務場所によって年収が変化する状況もうかがえます。

    お金だけを目的にする必要はありませんが、「これからどう働くか」を考えるうえで、給与イメージを知っておくことは大きなヒントになります。

    精神保険福祉士の起業後の未来像-社会に役立っている事例3つ

    ここでは実在の制度や地域の動きを踏まえながら、起業後の未来イメージを3つ紹介します。

    今の経験を生かしながら、小さく始めるスタイルでも十分に社会に役立つ働き方となります。

    事例1:復職支援に特化したオンライン相談

    まず精神保健福祉士が、独立してオンライン相談を始めるパターンです。

    対象は、うつ病や適応障害で休職中・復職直後の人や、その家族となります。

    長野県上小圏域の事例では、復職スケジュールや主治医・産業医との関係の整理、生活リズムや負荷調整の具体的な工夫を一緒に組み立てるといった支援をオンラインで行っています。

    オンラインであれば、平日夜や土日にも相談しやすく、地方から都市部の専門家にアクセスすることも可能です。

    経験とスキルを掛け合わせることで、「復職に悩む人のためのオンライン専門相談」という起業のイメージが見えてきます。

    事例2:家族支援・家族会を軸にした地域密着事業

    次に、地域で家族向けの相談会や学習会を企画・運営するパターンです。

    厚生労働省の調査では、精神障害のある人を支える家族が、精神的・経済的負担や孤立感を抱えやすいことが繰り返し指摘されています。

    福島県二本松市では、自立支援協議会の中に子ども支援・教育支援・就労支援など複数の部会を設け、家族も巻き込んだ地域ネットワークづくりが進められています。

    「事業所」というより、「安心して気持ちを話せる小さな場」をつくるイメージに近く、公的な家族会や協議会がカバーできないすき間を埋める立ち場として、精神保健福祉士の役割が必要です。

    事例3:企業向けメンタルヘルス研修・相談窓口サービス

    3つ目は企業や団体と業務委託契約を結んで活動するパターンです。

    国のメンタルヘルス施策では、企業に対して継続的なメンタルヘルス教育・相談体制の整備が求められています。

    一方で、実際の現場では「制度が形骸化している」「外部の専門家と連携できていない」といった課題が解決しきれていません。

    今治市では精神保健福祉士が相談支援員として就業・生活支援センターや企業側窓口が自立支援協議会の一員として位置づけられており、「雇用と生活の両面から支える」役割が重視されています。

    ここでは、精神保健福祉士が管理職向け、一般社員向けの研修や、月に数回のオンライン相談窓口の担当といった形で企業に関わることが可能です。

    そして、単なる研修講師だけでなく、個別の相談や伴走型のサービスとして起業するイメージが描けます。

    精神保険福祉士で起業する-今日からできる3つのルート

    「ニーズはわかった、でも簡単に起業なんてできるのか」と感じる方も多いと思います。

    ここでは、今日から準備できる3つの起業ルートを紹介しますので、小さく始めるヒントにしてみてください。

    ルート1:対面・オンライン、平日夜や土日からスポットで始める

    最初のルートは、今の仕事を続けながら、時間と範囲を限定して活動を始める方法です。いきなり本業を手放さないことで、生活の安心感を保ちつつ動けます。

  • 月に数回からオンラインでの個別相談を受ける
  • 知り合い数名を対象に、無料から少額の勉強会や座談会を開催する
  • 地元のカフェや公共施設の会議室で、小さな家族会を試す
  • ここで大事なのは、「完璧なサービスを作ってから始める」のではなく、小さく実験しながらニーズを確かめる姿勢です。

    少しやってみて「ここはもう少し工夫したい」と感じたことがあれば、そのまま起業の方向性を決める材料になります。

    ルート2:オンライン発信・講師・コンテンツビジネスから始める

    2つ目のルートは、情報発信や講師としての活動から始める方法です。

    ブログやnote、SNSで自分の考えや経験を言語化していくこと自体が、将来の起業につながる「土台づくり」になります。

  • 精神保健福祉に関する基礎知識や、家族・支援者向けのQ&A
  • 自分が現場で感じたことをnoteにまとめる
  • 教育機関のコラムなどでも、精神保健福祉士のキャリアの一つとして「研修講師や教員」といった道が紹介されています。

    発信の良いところは、自分の言葉や価値観に共感してくれる人が自然と集まることです。

    経験談や失敗談も含めて正直に書くことで、「この人に相談したい」「この人の講座を受けてみたい」と思ってもらえる可能性が高まります。

    ルート3:企業と契約/セミナー・研修講師などで社会参画する

    3つ目のルートは、一人で全部抱え込まず、誰かと組んで始める方法です。

    具体的には、次のような関わり方があります。

  • 就労支援事業所やNPOと業務委託契約を結ぶ
  • 企業と提携し、講師として登録する
  • 自治体の委託事業や地域自立支援協議会に参加する
  • 今治市の事例でも精神保健福祉士が地域の中で連携しながら活動する姿が紹介されています。

    こうした枠組みに加わり、既に場や仕組みを持っている組織と組んでスタートするイメージです。

    まとめ:精神保健福祉士の起業の一歩

    精神疾患を抱える人への支援ニーズが高まっている中、あなたが精神保健福祉士として積み重ねてきた経験を多様な場で活かせる働き方が広がっています。

    起業は、今の働き方を全部捨てるような劇的な選択である必要はありません。オンライン支援、家族支援、企業向け研修・相談といった小さな形が現実的な選択肢です。

    「自分はどのルートなら試せるか」を一度ゆっくり書き出してみてください。その作業自体が、起業に向けた最初の具体的な行動になります。

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