2025.11.08 起業ガイド

貸し農園で地方を救う―開業前に知っておくべき制度と成功事例を解説

貸し農園で地方を救う―開業前に知っておくべき制度と成功事例を解説

地方の遊休農地が増え続ける一方で、都市部では市民農園へのニーズが高まっています。

国土交通省の調査によると、中山間地域では今後急激な人口減少が予想され、農業分野での人手不足は深刻な課題です。

しかし、この課題は同時に大きな機会でもあります。再生可能な荒廃農地は全国で9.4万haにのぼり、これらを活用する貸し農園開業は地域再生の有力な選択肢です。

でも「制度が複雑で何から始めればいいか分からない」「初期費用が心配」といった不安を抱えている方も多いかもしれません。

この記事では、貸し農園開業に関わる3つの法制度を分かりやすく整理し、実際の成功事例から学べるスモールスタートの方法をご紹介します。

地域の未来を創る一歩を、一緒に踏み出してみませんか。

データで見る地方の課題と貸し農園開業の可能性

まず地方が抱える課題と、土地利用の可能性をデータと国の施策から見ていきます。

今後の貸し農園開業に向けたヒントにしてください。

データで見る地方の現状

国土交通省の調査によると、中山間地域では今後急激な人口減少が予想されています。

内閣府の「地域における人手不足問題」でも、地方の労働力不足が年々深刻化していることが明らかになりました。

農家の高齢化と若い働き手の都市部流出により、従来の経営方法に頼った農作業では限界が見え始めています。

その一方で、再生利用が可能な荒廃農地は令和5年度時点で9.4万haに達し、その56%が中間農業地域と中山間地域に集中しています。

活用されていない農地が多数存在する今こそ、これらを地域資源として再生する好機です。

都市農園の増加に見るニーズ

都市部では市民農園へのニーズが安定的に存在し、面積も増加傾向にあります。

東京都の体験農園は令和6年3月末時点で147園、11,251区画、総面積39.9haに達しました。年次推移を見ると、令和3年の142園から着実に増加しています。

全国の市民農園も、平成30年の都市農地貸借法施行以降は増加傾向に転じていました。

令和6年3月末時点では4,257農園と前年度比では微減したものの、長期的には制度開始以降、農園数・面積ともに増加してきた実績があります。

制度・施策で見る国の後押し

市民農園とは、レクリエーション・学習・交流を目的として、小面積の農地で野菜や花を育てる農園のことです。

都市農業振興基本法では、新鮮な農産物の供給、農業体験の場の提供、災害時のオープンスペース確保など、多様な役割を果たすものとしています。

農林水産省の「農山漁村振興交付金(都市農業機能発揮対策)」は毎年度公募され、都市住民との交流や体験農園に資する取組を支援しています。

国土交通省の「コンパクト・プラス・ネットワーク」政策でも、農地保全・活用施策が位置づけられています。

貸し農園開業の前に押さえるべき3つの制度

日本では、農地は「農地法」で厳しく守られています。

農地の貸借や転用には、原則として農業委員会などの許可が必要です。この規制を緩和するための特例法が3つ用意されており、それぞれ目的と使い方が異なります。

市民農園整備促進法は農地転用・開発許可を緩和し、施設整備をしやすくします。

特定農地貸付法は農地法の貸付許可を緩和しますが、市町村や農協等の仲介が必要です。

都市農地貸借法は都市部限定で、農地所有者が直接貸すことを可能にし、相続税優遇も継続できます。

以下で一つずつ詳しく説明します。それぞれ目的と使い方が異なるため、違いを理解することが重要です。

市民農園整備促進法

市民農園整備促進法は、施設を整備した市民農園を開設しやすくするための法律です。都市住民のレクリエーション・学習・交流の場として市民農園を整備することを目的としています。

重要な用語として、「市民農園」はレクリエーション用農園の総称で、「特定市民農園」は市町村の認定を受けた市民農園を指します。

「農地転用」とは、畑や田んぼを駐車場や休憩所など農地以外に変えることで、通常は厳格な許可が必要です。

認定を受けると、休憩所や農機具置き場などの付帯施設を作る際、農地転用許可が不要になる場合があります。

認定要件は、「市民農園区域または市街化区域内であること」「整備運営計画を作成し市町村の認定を受けること」などがあります。

特定農地貸付法(特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律)

特定農地貸付法は、農地を市民に貸し出す手続きを簡単にするための法律です。

市民に農地を貸しやすくする特例を作り、都市住民等への趣味的な利用(非営利目的)を促進します。

「農地法」は日本の農地を守るための基本法で、農地の貸し借りには農業委員会の許可が必要です。「特定農地貸付け」は、営利目的でない趣味的な貸付を指します。

この法律を使うと、通常必要な農業委員会の許可手続きが免除されます。

条件は、1区画10アール未満、貸付期間5年以内、営利目的でない農作物栽培用、相当数の人を対象に定型的条件で貸し付けることです。

実施主体は基本的に市町村や農協が仲介する形となります。農地所有者が直接貸すのではなく、公的機関が仲介する仕組みです。

都市農地貸借法(都市農地の貸借の円滑化に関する法律)

都市農地貸借法は、都市部の農地を所有者が直接貸しやすくするための法律です。

都市部の農地、特に生産緑地を維持しながら活用を促進します。

「都市農地」は市街化区域内の農地を指し、「生産緑地」は都市部の農地のうち環境保全のために指定された農地で、相続税の納税猶予という優遇措置を受けられます。

最大のメリットは、所有者が直接貸せることです。特定農地貸付法では市町村等の仲介が必要でしたが、この法律では不要です。

さらに、生産緑地の相続税納税猶予を受けている人が農地を貸しても、優遇措置が継続できます。

貸し農園開業を後押しする代表的な補助・支援制度

貸し農園開業を支援する公的制度は、「資金」「助言」「人材」の3つの側面から整備されています。

これらの制度をうまく活用して、開業時の負担を軽減しましょう。

資金面の支援:農山漁村振興交付金

農林水産省が所管する「農山漁村振興交付金」は、貸し農園開業を資金面から支援します。

都市住民との交流・体験の場の創出、体験農園の付帯施設整備、情報発信等を対象に、毎年度公募が行われています。

体験農園に関わる施設整備や活動費用の一部を補助してもらえるため、初期投資の負担を抑えられます。応募時は当該年度の公募要領を必ず確認してください。

助言面の支援:「農」の機能発揮支援アドバイザー派遣

一般財団法人都市農地活用支援センターが実施する「『農』の機能発揮支援アドバイザー派遣事業」は、農林水産省事業として運営されています。

体験農園・市民農園の開園や運営に関する専門家を無料で派遣し、勉強会での説明、現地でのアドバイス、オンライン相談にも対応します。

専門家から直接アドバイスを受けられるため、開業前の不安を解消できます。

制度の選び方、施設の配置、利用者募集の方法など、実務的な相談が可能です。

人材面の支援:総務省「地域おこし協力隊」

総務省の「地域おこし協力隊」制度は、1〜3年の任期で地域課題解決に従事する人材を自治体が委嘱する仕組みです。令和5年度の隊員数は7,200人、任期後の定住率は約7割です。

体験型農園・交流事業の立ち上げに人材・実装力を補完する活用例が各地で見られます。「農業経験のある若い人材を地域に呼び込み、貸し農園の運営をサポートしてもらうことで、開業初期の人手不足を解消できます。

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貸し農園成功事例に見る開業スモールスタートの事例

実際の成功事例から、「面積」「品種」「ターゲット」の3つの視点でスモールスタートする方法を学びましょう。

貸し農園開業を成功に導くためには小さく始めて徐々に大きくする意識が重要です。

事例①:面積を絞って始める

東京都練馬区の「イガさんの畑」は、運営者の五十嵐透氏が平成11年に農業体験農園として開園しました。最初は小規模な農園としてスタートし、隣接農地を段階的に借り受けて拡大していった事例です。

最初の拡大では6aを借り受け13区画を増設、その後さらに13aを借り受け12区画を増設しました。

都市農地貸借法を活用した全国初の事業計画認定を受けています。

成功の要因は、高齢により農地維持に苦慮していた隣接農地の所有者とマッチングできたことです。

練馬区農業委員会が所有者への丁寧な説明をサポートし、スムーズな借地を実現しました。最初から大規模にせず、需要を見ながら段階的に拡大できることが分かります。

事例②:品種を絞って始める

東京都世田谷区の「世田谷いちご塾」は、人気作物のいちごに絞って作付けを行った事例です。

季節限定の収穫体験から始め、利用者の反響を見ながらイベントを拡大しました。

「夜のいちご狩り」や「アート作品展示」など、新たなイベントに挑戦しています。

いちごという人気品種に特化することで、準備・管理負担を抑制して作物の品質を向上させつつ、独自の体験価値を提供しました。

体験農園型では、トマト、ブルーベリー、ハーブなど、人気作物に絞る例が多く見られます。

すべての作物を網羅する必要はなく、人気の品種に絞ることで運営ノウハウを蓄積しやすくなります。

事例③:ターゲットを絞って始める

アグリメディア株式会社が運営する「シェア畑」は、顧客ターゲットを「農業未経験の都市生活者、ファミリー層・シニア層」に明確に絞り込みました。

「週末の畑作を楽しむ」レジャー感覚の顧客層に焦点を当てています。

首都圏を中心に44か所以上、5,100区画を運営し、農具・肥料・種苗・水道などを完備、栽培サポートスタッフ約110名を在籍させています。

初心者向けの手厚いサポート体制で好評を獲得しました。

東京都足立区の「横山農園」は、近所の方・子供たちと保護者をターゲットに設定し、SNSを活用して近隣住民と直接交流しています。

「誰に貸すか」を明確にすることで、サポート内容や広報戦略が具体化しやすくなります。

まとめ:地域再生につなぐ貸し農園を始めよう

地方には活用されていない農地が多く存在し、都市部には市民農園へのニーズが確実にあります。3つの法律を理解すれば、農地法の規制を乗り越えて貸し農園を開業できます。

支援制度を活用し、スモールスタートで始めれば、リスクを抑えながら事業を育てていけます。

まずは自治体の農業委員会や農林水産省の相談窓口に問い合わせてみてください。

成功事例に学びながら、あなたの地域に合った方法で一歩を踏み出してみませんか。

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