2025.12.27 起業ガイド
ビール醸造で起業|資金・免許の壁を越えるマイクロブルワリー成功法
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「自分だけのオリジナルビールを作って、多くの人に飲んでもらいたい」
「地域に愛されるビアパブを開きたい」。
クラフトビールブームの到来により、ビール醸造での起業(マイクロブルワリー)を目指す人が増えています。
しかし、醸造所を開くには、醸造タンクなどの高額な設備投資に加え、国税庁からの厳しい免許取得のハードルを越えなければなりません。
この記事では、ビール醸造で起業し、黒字化するための具体的な手順と、免許取得のポイントを解説します。
最後まで読めば、ビール醸造起業で必要なものがわかり、どのようにビジネスを展開していけばよいかが理解できます。
クラフトビールブームの今、個人が参入する勝機とリスク
日本のクラフトビール市場は拡大を続けていますが、同時に競争も激化しています。
大手ビールメーカーもクラフトビール市場に参入しており、ただ「手作りです」というだけでは選ばれない時代になりました。
個人が参入する勝機は、大手には真似できない「小ロット多品種」の生産と、地域コミュニティに根ざした「ブルーパブ(醸造所併設レストラン)」という形態にあります。
しかし、設備産業である以上、初期投資の回収には時間がかかります。
甘い見通しでスタートすると、資金ショートや在庫過多といったリスクに直面することになります。
なぜ多くのブルワリーが製造量6,000Lの壁に苦しむのか
ビール醸造免許を取得するためには、年間最低製造量「60キロリットル(60,000L)」という基準をクリアする必要があります。
これは330ml瓶で約18万本分に相当し、個人規模のブルワリーがいきなり達成するのは困難な数字です。
この壁に阻まれ、多くの志望者が断念するか、無理な製造計画で認可を取り消されるリスクを抱えています。
しかし、これには抜け道があります。「発泡酒免許」であれば、年間最低製造量は「6キロリットル(6,000L)」で済みます。
実は、日本のクラフトビールの多くは、フルーツやスパイスを使用することで「発泡酒」として販売されており、味や品質はビールと遜色ありません。
目指すべきはブルーパブかボトル販売か
収益モデルは大きく分けて、店内で飲食提供する「ブルーパブ」と、瓶や缶に詰めて流通させる「ボトル販売(外販)」の2つがあります。
ブルーパブは、グラスで提供するため利益率が高く、お客様の反応をダイレクトに感じられるのが魅力ですが、飲食店の運営ノウハウが必要です。
一方、ボトル販売は販路を拡大できますが、充填機やラベル貼り機などの追加設備が必要で、酒販免許の要件も加わります。
初期はブルーパブでファンを作り、経営が安定してからボトル販売に参入するのが、リスクを抑えた王道のステップです。
徹底解説|醸造所開業に必要な資金と免許取得の裏ワザ
ブルワリー開業の最大のハードルは「お金」と「免許」です。
ここをクリアできなければスタートラインに立つことすらできません。
しかし、正攻法だけでなく、工夫次第でコストを抑えたり、免許取得の難易度を下げたりする方法は存在します。
ここでは、現実的な資金目安と、賢い免許取得の戦略について解説します。
初期費用は1500万〜?タンク・物件・内装費の内訳
マイクロブルワリーを開業するには、一般的に1,500万円〜3,000万円程度の資金が必要と言われています。
内訳としては、醸造設備(タンク、粉砕機、冷却設備など)に500万〜1,000万円、物件取得費と内装工事費(給排水、防水工事が必須)に500万〜1,000万円、その他運転資金です。中国製のタンクを輸入してコストを下げたり、居抜き物件を活用したりすることで圧縮は可能ですが、それでも1,000万円近くは必要です。
日本政策金融公庫の融資や、「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」などの活用は必須条件と言えるでしょう。
| 項目 | 概算費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 醸造設備一式 | 500万〜1,500万円 | 製造規模による。輸入でコストダウン可。 |
| 物件取得費 | 100万〜300万円 | 重飲食可、排水設備のある物件が必要。 |
| 内装・防水工事 | 500万〜1,000万円 | 床の防水工事や空調設備にお金がかかる。 |
| 免許申請・研修費 | 50万〜100万円 | 行政書士報酬や技術研修の費用。 |
| 合計目安 | 約1,150万〜3,000万円 | ※運転資金は別途必要 |
ビール免許ではなく発泡酒免許を狙うべき理由
前述の通り、ビール免許の「年間60KL」という製造ノルマは、小規模事業者には非現実的です。
そこで狙うべきなのが「発泡酒免許」です。
発泡酒免許ならノルマは1/10の「年間6KL」で済みます。月に500L(330ml瓶で約1500本)作れば達成できる数字であり、小さなブルーパブでも十分にクリア可能です。
「発泡酒」と聞くと安っぽいイメージを持つかもしれませんが、麦芽使用率が50%以上であれば税率はビールと同じであり、クラフトビールの世界ではフルーツやハーブを使った個性的なビール(法的には発泡酒)が高く評価されています。
こだわりがない限り、まずは発泡酒免許でのスタートを強くおすすめします。
いきなり工場を持たない!ファントムブルワリーという選択
「資金が足りない」「リスクを最小限にしたい」。そんな方におすすめなのが、自前の醸造設備を持たず、他のブルワリーに委託してオリジナルビールを作る「ファントムブルワリー(委託醸造)」という手法です。
欧米では一般的で、日本でも増えてきています。設備投資ゼロで自分のブランドビールを世に出すことができ、テストマーケティングとしても最適です。
OEMで自分のビールを販売し、ファンと資金を作る手順
ファントムブルワリーの始め方はシンプルです。
まず、委託醸造(OEM)を受けてくれるブルワリーを探し、レシピやコンセプトを相談します。
製造はプロに任せるため、品質の担保されたビールが出来上がります。
あなたは完成したビールの「販売(マーケティング)」に専念できます。
酒販免許(通信販売酒類小売業免許など)を取得し、イベント出店やECサイト、飲食店への卸しを行うことで、自分のビールのファンを獲得します。
そこで得た利益と実績を元に、将来的に自前の醸造所を持つための融資を引き出すというステップアップが可能です。
委託醸造の原価率は?利益を出すための価格設定
OEMの課題は利益率です。
製造委託費がかかるため、原価率は高くなります。
一般的に、330ml瓶1本あたりの製造原価は400円〜600円程度になります。
これを飲食店に卸す場合、掛け率(6〜7掛け)を考慮すると、利益は薄くなります。
利益を出すためには、ECサイトでの直販(定価販売)や、イベントでのカップ販売(1杯800円〜1000円)をメインにする必要があります。
「誰に」「どこで」「いくらで」売るかという出口戦略を綿密に立てなければ、在庫の山を抱えることになります。
愛されるブルワリーを作るコンセプトと集客
美味しいビールを作ることは大前提ですが、それだけではお客様は来てくれません。
「なぜこの場所で、このビールを飲むのか」という理由が必要です。それが「コンセプト」です。
地元の特産品を使ったフルーツビールで地域貢献するのか、仕事帰りのビジネスマンが癒やされる隠れ家パブにするのか。コンセプトが明確であればあるほど、コアなファンがつきます。
地域のコミュニティになるための店舗設計
マイクロブルワリーの強みは「顔が見える」ことです。
醸造タンクを客席から見えるように配置し、「ここで作っている」というライブ感を演出しましょう。
作り手であるあなた自身がカウンターに立ち、お客様とビール談義に花を咲かせることも重要です。
常連客同士が仲良くなり、コミュニティが生まれれば、彼らが勝手に友人を連れてきてくれます。
地域のお祭りやイベントにも積極的に参加し、「街のビール屋さん」としての認知を広げていきましょう。
SNSとイベント出店で飲む理由を作る
SNSは最強の集客ツールです。仕込みの様子や新商品のリリース情報、イベント出店の告知などをこまめに発信しましょう。
特にInstagramはビールの「シズル感」を伝えるのに最適です。
また、週末は各地で開催されるビアフェスやマルシェに出店し、試飲販売を行いましょう。
そこで「美味しい!」と思ってくれた人が、後日店舗やECサイトを訪れてくれます。
地道な活動ですが、一杯のビールが次の来店に繋がる種まきとなります。
あなたのビールが誰かの人生を彩る日のために
ビール醸造での起業は、自分が情熱を注いで作ったビールで、誰かが笑顔になり、乾杯する瞬間を見る喜びは、何物にも代えがたいものです。
大切なのは、夢だけで終わらせず、現実的な数字と事業計画を持って一歩を踏み出すことです。
ぜひこの記事を参考に、ビール醸造の起業へと挑戦してみましょう。
もしサポートが必要な際は、お問い合わせからご相談くださいませ。
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