2025.12.11 起業ガイド

作業療法士は起業できる?知るべき注意点&資格と収入の関係を解説

作業療法士は起業できる?知るべき注意点&資格と収入の関係を解説


作業療法の仕事に興味を持ちながら、「資格がない自分でもできるのだろうか」と迷っている方は多いかもしれません。

病院で働くスタッフを見て憧れを抱いたり、いつか自分で開業したいと感じたりする場面もあるでしょう。

しかし、制度や働き方の違いが分かりにくく、最初の一歩を踏み出すには不安が残りやすいものです。

この記事では、医療保険の仕組みや法律上の注意点、自費リハビリの位置づけ、収入の相場など押さえておきたい情報を紹介していきます。

未来の働き方を考えるための基礎づくりとして活用してみてください。

作業療法とは?役割と起業後の関係を整理

この章では、作業療法の基本的な役割、医療現場での仕事内容について触れていきます。

専門職としての立ち位置を理解すると、起業後の選択肢やサービス設計がつかみやすくなります。

作業療法の目的と領域

作業療法は、心と体の機能が低下した方が「ふだんの生活に戻る力」を取り戻すために行われる支援で、その目的は、日常生活や社会参加を取り戻すために必要な「できる動き」を増やすことです。

作業療法では食事・歯みがき・家事・遊び・趣味など、生活場面での心身の機能を回復させます。

対象となる領域は幅広く、身体の障害だけでなく、精神疾患、発達の課題、高齢期の認知症などにも関わります。

多様な作業を組み合わせながら、生活に寄り添う支援で幅広いニーズに応える専門性として重視されています。

医療保険の中での作業療法

病院やクリニックで行われる作業療法は、医療保険のもとで実施される専門的なリハビリで、患者の回復を段階的に支える役割があります。

ここでの作業療法士の主な業務は、身体機能や認知機能の検査、生活動作の観察です。

医師の指示に基づき、カルテ情報や面接から生活状況を把握、そのうえで、訓練目標を立て、患者の生活に必要な作業を選び、訓練へつなげていきます。

一般的な医療施設では医師・看護師・理学療法士とともにチームで支援を進める体制が組まれています。

また医療保険内でのリハビリは、決められた制度の中で提供されるため、料金は全国で一定です。

自費リハビリとは?合法性/対象者/提供できる範囲

医療保険や介護保険制度を使わない、通称「自費リハビリ」と呼ばれるサービスがあります。

利用者が全額自己負担で受けるサービスです。

制度上は保険診療とは別枠で扱われるため、サービス内容や価格設定を比較的柔軟に決められるのが特徴です。

自費リハビリを利用する人は、保険で受けられるリハビリの期間が終了した方や、退院後の生活に不安を抱えている方などが中心です。

歩行や家事動作の練習、生活の工夫の提案、自主トレーニングの見直しといったサポートが主な内容になります。

一方で、医療行為や診断行為を伴う支援は認められておらず、「作業療法」という名称を掲げて提供することはできません。

作業療法は本来、医師の指示のもとで行われる医療行為なので、この点は厳格に分けて理解する必要があります。

作業療法で起業する前に知るべき注意点

自分の専門性を活かした働き方を考えるとき、制度や法律の理解が欠かせません。

ここでは起業する上で誤解されやすいポイントを中心にまとめていますので、制度を踏まえたサービスづくりに活かしてください。

無資格で「作業療法士」とは名乗れない

「作業療法士」という名称は、国家資格として法律で守られています。

国家試験に合格し、免許を取得してはじめて作業療法士を名乗ることができます。

なので無資格の方が同じ名称を使うことはできません。

また、「作業療法」が法律上「医師の指示のもとで行われる技術」とされていることから、資格を持っていても「作業療法」という名称でサービスを提供することはできません。

先ほども書いた通り医療行為に含まれるためです。

医療行為や診断行為に触れない形でのサービスの提供が必要なため、できることの境界を理解しておきましょう。

提供できる価値とビジネスモデル

では、まったく事業ができないのかというと、そうではありません。

作業療法士の専門性は、生活を支える動作を改善するための支援で活かせます。

日常生活動作や認知機能の評価、訓練プログラムの作成など、これらの強みは、医療機関だけでなく、起業後のサービスでも活用できます。

例えば生活相談を中心にしたアドバイス、オンラインでのトレーニング指導などが可能です。

生活の困りごとに寄り添う形で、価格を自由に決められるため、利用者の必要に合わせて内容を調整しやすい選択肢です。

誇大広告・医療行為の禁止と安全な範囲

サービス提供を検討する際、誇大広告や医療行為に該当する表現を避けなければなりません。

たとえば「治る」「必ず改善する」といった断定的な説明は、利用者の誤解を生む恐れがあります。

そして医師の権限に当たる判断や病名診断も、作業療法士は行えません。

一方で、生活動作の工夫提案や自主トレーニングに即した表現であれば、安全にサービスを提供できます。

制度に沿った言葉選びを心がければ、利用者の安心感にもつながります。

信頼関係を築くうえで、正確な伝え方が重要です。

作業療法で起業する選択肢と収入の仕組み

作業療法士として起業を考えるとき、どのような収入構造になるのかを知っておきたい方は多いのではないでしょうか。

この章では、作業療法士の収入の目安、起業後の収入シミュレーションと、今、起業がチャンスである理由を整理します。

リハビリ助手の給料相場と作業療法士の平均給料

資格を取得する前の段階では、リハビリ助手として働く選択肢があります。

東京都のリハビリ助手は時給1,200〜1,350円、月給20〜22万円前後が相場で、年収換算では240〜300万円が中心です。

一方、作業療法士の平均年収は444.2万円と示されています。

国家資格を取得することで、給与面で大きな差がつきます。

働き方の幅が広がり、病院・施設・訪問リハなど複数の選択肢を持てる点も国家資格の魅力です。

収入の現実を踏まえると、資格取得は将来の選択肢を広げる重要なステップです。無資格のうちに現場経験を積みながら、次の段階を見据える働き方も考えてみましょう。

介護費用の増加から見る作業療法ニーズと市場の伸び

出典:厚生労働省「介護保険にかかる総費用の推移」

作業療法士を取り巻く市場は拡大しています。

令和6年度の介護給付費の年間総額は、前年から4,242億円増えて11兆9,381億円です。

さらに、介護保険にかかる総費用が2000年の3.6兆円から令和4年には11兆円台へと継続的に増加しています。

この動きを見ると、生活機能を支えるリハビリの需要は今後も続くと考えられます。

市場全体が拡大している環境では、起業という選択肢も現実的に検討しやすい状況です。制度の変化とあわせて、長期的な需要にも目を向けていきましょう。

起業時の時間単価と売上60万円のシミュレーション

自費リハビリの料金は、1回60分あたり9,000〜10,000円前後が一般的な相場です。

一方、病院勤務の作業療法士の時間当たり賃金は2,257円です。

この数字と比較すると、自費リハビリの1時間1万円という価格は、病院勤務の時間単価の約4〜5倍になります。

この相場に基づき、起業後の売上は以下のような計算ができます。


【売上60万円のシミュレーション】

  • 料金:1回60分 1万円
  • コマ数:1日3コマ × 週5日 → 週15コマ
  • 月間稼働:週15コマ × 4週 → 月60コマ
  • 月間売上:1万円 × 60コマ = 60万円
  • ここから事業経費(移動費・レンタルスペース代・道具など)が差し引かれるため、手元に残る金額は別に考えてください。

    しかし利用者のニーズに合ったサービスを設計できれば、単価や稼働日数を自分で調整しやすい働き方が可能になります。

    作業療法士の起業-資格取得前からできる準備

    まだ資格を持っていなくても、今から始められることは多いです。

    この章では、今から取り組める準備や、副業として始められる活動、そして将来に向けた学びのステップを整理します。

    無資格でも現場を学ぶ方法

    無資格であっても、作業療法士の仕事に近い経験を積める場があります。

    例えば、リハビリ助手として働く選択肢です。医療施設・デイサービス・介護施設などで補助業務を担当します。

    専門行為は担当できませんが、利用者との関わり方や現場の流れを学ぶには有効です。

  • 高齢者向けの生活サポート(買い物同行・外出付き添いなど)
  • 健康づくりを目的としたオンラインの軽運動サポート
  • 趣味活動を支えるレクリエーション企画
  • いずれも作業療法そのものではありませんが、「人の生活を支える」という作業療法士の根幹に触れられる活動です。

    作業療法士資格の取り方

    作業療法士になるには、国家試験に合格し、免許を取得する必要があります。

    受験資格は、国が指定した作業療法士養成課程のある大学・短大・専門学校などで3年以上学ぶことが条件です。

    養成校では、医学的基礎から作業分析、発達・精神・老年期などの専門科目などを学びます。

    実習を通じて臨床経験を積み、卒業後に国家試験を経て免許が交付されます。

    資格取得は時間と労力を必要としますが、専門職として長く働ける土台を作ってください。

    認定作業療法士/専門作業療法士の違いと単価アップの考え方

    作業療法士の上位資格として認定作業療法士と専門作業療法士があり、身体障害・精神障害・発達障害・老年期など、領域ごとに専門作業療法士が分類されています。

    両者の主な違いは次のとおりです。

  • 認定作業療法士:広い領域の知識と一定の実務経験を証明する資格
  • 専門作業療法士:特定領域における高度な専門性を示す資格
  • これらの資格を取得すれば、

  • 片麻痺特化のリハビリ
  • 認知症予防の生活支援プログラム
  • 発達支援×環境調整の伴走支援
  • などのサービスが提案できます。

    独立したあと、利用者に選ばれやすくなるには、 「どの領域に強い作業療法士なのか」を明確に伝えることが欠かせません。そして利用者は、自分の課題に合った専門家を求めるため、サービス価値を高めて料金にも反映できます。

    まとめ:作業療法でキャリアを積もう

    作業療法士は「生活の再構築」を支える専門職であり、多様な領域で価値を発揮できます。開業のルールが複雑と思うかもしれませんが、制度を理解すれば選択肢が広がります。

    また、これから作業療法士を目指す方にとって、今から準備を少しずつ積み重ねていくことで、夢のハードルは確実に下がっていきます。

    あなたのサービスを求める方を想像して、ご自身の未来を育ててみてください。

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